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知って得する経営塾 第635号 『会社指定のカウンセラー、社員の相談内容を人事部に提供→査定に利用も』

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『会社指定のカウンセラー、社員の相談内容を人事部に提供→査定に利用も』
                ビジネス・プロデューサー 鈴木 領一
 
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「メンタルに問題のある社員に、会社指定のカウンセラーに相談するよう推薦していますが、
 
秘密厳守といいながら、実は裏で会社の人事部に情報が流れるんですよ」
 
 
これは筆者が、ある企業の人事関係者から聞いた言葉だ。
 
社員50名を超える会社には、社員のメンタルヘルスケアが義務づけられている。
 
いわゆる「ストレスチェック制度」だ。
 
 
しかし実態は、社員のメンタル情報の「管理」になっており、
 
メンタルにかかわる個人情報を人事部が把握し、
 
人事査定に利用されているケースもあるのだ。
 
 
そんな状況を抜本的に変える、日本初のまったく新しいプロジェクトが始動した。
 
東京大学大学院でスタートした「ココロ・ストレッチ」というプロジェクトだ。
 
 
ココロ・ストレッチは、法人向けメンタルケアサービスだ。
 
オンラインで社員が自主的にメンタルケアを行える仕組みで、
 
社員の個人情報は強固なセキュリティで守られ、
 
完全に会社から切り離されている。
 
 
AI(人工知能)やICT(情報通信技術)を活用し、
 
自分のメンタルの状況をモニターしながら、
 
オンラインでメンタルケアの方法を学びつつ、
 
「折れない心」(レジリエンス)を養成することができる。
 
さらに、必要に応じて臨床心理士のアドバイスを直接受けることもできる。
 
 
従来のように会社が社員のメンタルを管理するのではなく、
 
社員が自主的に楽しくメンタルを鍛え、
 
折れない心になることを自らコミットメントできる仕組みになっている。
 
 
このプロジェクトを発案し推進しているのは、
 
東京大学大学院教育学研究科・臨床心理学コース
 
下山研究室の下山晴彦教授だ。
 
 
下山教授は、これまでの日本的なメンタルケアのあり方を
 
変える必要性があると感じてきたという。
 
 
「メンタルクリニックに患者さんが来るというスタイルは、
 
いわばメンタルケアの第一世代といえます。
 
しかし、それではクリニックに行ける患者さんしかケアすることができません。
 
クリニックに来られる方は、まだ改善する可能性がありますが、
 
来られない方にこそケアが必要な場合があるのです。
 
鬱病患者は100万人くらいいると想定されていますが、
 
実際はその4倍はいるのではないかともいわれています。
 
多くの方が、クリニックに来ることさえできないのです」(下山教授)
 
 
◆メンタルヘルスの分野で欧米から大きく遅れている日本
 
メンタルヘルスの分野では、日本は欧米に比べて数十年遅れている。
 
アメリカでは1940年代から心理職は国家資格となっている。
 
先進国では心理職が国家資格であるのは当たり前だが、
 
日本では今年9月に、ようやく国家資格の「公認心理師」の試験が行われ、
 
日本で初めて国家資格を持つ心理職が誕生する。
 
 
今まで、臨床心理士などの心理職は民間資格であって、
 
国家資格ではなかったのだ。また、欧米ではオンラインとICTを活用した
 
心理支援の仕組みが数年前から始まっていた。
 
欧米から大きく遅れた日本のメンタルヘルスだが、
 
今回、下山教授が推進するココロ・ストレッチは、
 
欧米よりも先を行く仕組みになるという。
 
 
「メンタルヘルスの第二世代は、専門家が現場に行く(アウトリーチ)スタイルです。
 
クリニックに来ることができない患者さんに、積極的に専門家の側からサービスを提供する形です。
 
現在はオンラインによって、それが可能になりました。欧米がこの方法を取り入れています。
 
しかし、システムで対応すれば、どうしても機械的な対応となり、長続きしないという弱点もありました。
 
 
そして、次に出てきたのが第三世代です。
 
AIやロボットを活用することで、患者さんが自主的に自分のメンタルをモニターできるようにし、
 
自分でメンタルを強くするように導くことができます。
 
ココロ・ストレッチは、まさに第三世代のメンタルケアの方法です」(同)
 
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※下山研究室作成の資料より
 
 
下山教授は昨年、AIを使ったメンタルケアのアプリ
 
「いっぷく堂」を開発・一般公開し、検証を重ねてきた。
 
また、大手メーカーと組んで、お掃除ロボットにAIを入れて、
 
メンタルケアのサービスを提供するテストも行ってきた。
 
 
今回のココロ・ストレッチでは、さらに一歩進め、
 
ゲーミフィケーション(課題解決にゲームの要素や特徴を取り入れること)も使い、
 
利用者が楽しみながら、メンタルを強くさせる仕組みも導入した。
 
このアイデアは、東日本大震災の経験から生まれたという。
 
 
「東日本大震災の時、私は被災地に赴き、子供たちのメンタルケアをしていました。
 
その時、子供たちがスマートフォンでゲームをしているのを見て、
 
我々のノウハウがゲームやインターネットで提供できれば、
 
自主的に取り組んでもらえるのではないかと閃いたのです」(同)
 
 
◆メンタルヘルスの不調で多大な経済損失
 
メンタルヘルス不調による我が国の経済的損失は、
 
年間2.7兆円といわれる。その背景には、社会の構造的な問題もある。
 
 
先進35カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)では、
 
メンタルヘルスの患者に対する医療を精神科病院から地域へと移行する、
 
「脱施設化」の傾向にある。しかし日本では、脱施設化が遅れており、
 
精神病床数はいまだにOECDでもっとも多く、
 
OECD平均が10万人当たり68床であるのに対し、
 
日本は実にその4倍の269床である(2011年前後のOECDデータ)。
 
 
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人口10万人当たり精神科病床数 (OECD資料より)
 
 
また、平均在院日数も、先進諸国の平均在院日数は18日前後だが、
 
日本では285日と極端に長い(2013年データ)。
 
これでも改善されてきているのだが、依然として「精神疾患=長期入院」
 
という構造があるのは間違いない。
 
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精神科病床の平均在院日数国際比較(厚生労働省の資料より)
 
 
さらに、先進諸国は国立・公立の病院が中心であるが、
 
日本の精神科病院は8割以上が民間病院である。
 
病院に税金が投入される欧州の場合、早期に退院し、
 
地域で治療を行うことが推奨され、それが成功している。
 
しかし、日本では民間病院が中心のため、
 
医療がビジネスとなり長期入院の傾向が続いていると、
 
OECDからも指摘されている。
 
また、薬の多剤大量投与も問題視されている。
 
 
日本におけるこれらの問題の背景には、
 
精神疾患のある者に対する社会の偏見もあると指摘したい。
 
それを改善するには、社会全体が精神疾患に対する理解を深め、
 
支援する体制をつくり上げることだ。
 
 
企業においても、メンタルヘルスの不調を訴えた社員に対し、
 
人事のための管理を行うのではなく、自主的に改善できるように、
 
積極的な支援を行う必要がある。
 
それは社員の人生を預かる企業の責任であろう。
 
 
下山教授は、「社員がメンタルの不調を感じても、
 
スティグマ(汚名の刻印)となることを恐れ、
 
会社に申し出にくいという日本独特の企業文化を変えていくことも重要」と語る。
 
今回の下山教授のココロ・ストレッチによる試みは、
 
これまでの日本のメンタルケアの概念を一変させる重要な一歩となるに違いない。
 
 
●鈴木領一(すずき・りょういち)
ビジネス・コーチ。ビジネス・プロデューサー。
自己啓発のレジェントであるナポレオン・ヒルが所属した「サクセスマガジン
社」の能力開発プログラムの企画開発責任者を務めた唯一の日本人。
さらに進化させた自己改革メソッド「フレーム・1%アクション」は
劇的な変化をもたらすメソッドとして今最も注目されている。
氏のコーチングを受けたことで、無職状態からEXILEとの共演を達成した
ケースや、起業して成功し新聞やテレビに取り上げられたケースなど、数多く
の成功者を次々に輩出している。近著に『100の結果を引き寄せる1%アク
ション』(サイゾー)がある。
 
※この原稿は、ビジネスジャーナルより鈴木領一氏の許可を得て
転載いたしました。
https://biz-journal.jp/2018/08/post_24539.html
 
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