被相続人の財産を引き継ぐ相続人がいない場合は
近年、配偶者や子のいない単身高齢者の増加などにより、亡くなった人(被相続人)の財産を引き継ぐ相続人がいないケースが増えており、遺言書もない場合、被相続人の財産は最終的に国庫に帰属することになります。最高裁の資料(裁判所省庁別財務書類)によると、相続人不存在のため国庫帰属となった相続財産の収入は令和5年度に1千億円を超えており、年々増加しています。
◆相続人の範囲
民法では、被相続人の財産を相続する権利を有する法定相続人を次のとおり定めています。・被相続人の配偶者(内縁関係は含まれません)は常に相続人となり、配偶者以外の人は次の順序で配偶者とともに相続人になります。なお、相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。
・第1順位:被相続人の子(子が被相続人の相続開始以前に死亡しているときや相続権を失っているときは、孫(直系卑属)が相続人となります)。
・第2順位:被相続人の直系尊属(父母が被相続人の相続開始以前に死亡しているときや相続権を失っているときは、祖父母が相続人となります)。第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になります。
・第3順位:被相続人の兄弟姉妹(兄弟姉妹が被相続人の相続開始以前に死亡しているときや相続権を失っているときは、甥、姪(兄弟姉妹の子)が相続人となります)。第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。
◆相続人がいない場合の財産の行方
法定相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合などで被相続人の財産を引き継ぐ相続人が一人もいない状態を相続人不存在といいます。
相続人がいない場合でも被相続人が遺言書を作成していれば、特定の個人や団体に財産を渡すことができますが、遺言書もなく相続人の存在も明らかでない場合は、利害関係人(被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など)や検察官の申立てにより、家庭裁判所は相続財産清算人を選任します。
相続財産清算人は、被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。なお、特別縁故者(被相続人と特別の縁故のあった者)に対する相続財産分与が行われる場合もあります。
◎相続財産清算人が選任された後の手続の流れ
1.家庭裁判所は、相続財産清算人選任の審判をしたときは、相続財産清算人が選任されたことを知らせるための公告及び相続人を捜すための公告を6ヵ月以上の期間を定めて行います。この公告の期間満了までに相続人が現れなければ、相続人がいないことが確定します。
2.1の公告があったとき、相続財産清算人は2ヵ月以上の期間を定めて、相続財産の債権者・受遺者を確認するための公告をします(1の公告の期間満了までに2の公告の期間が満了するように公告します)。
3.1の公告の期間満了後、3ヵ月以内に特別縁故者に対する相続財産分与の申立てが行われる場合があります。
4.相続財産清算人は、法律にしたがって債権者や受遺者への支払をしたり、特別縁故者に対する相続財産分与の審判にしたがって特別縁故者に相続財産を分与するための手続をします。
5.4の支払等をして精算後に相続財産が残った場合は、相続財産を国庫に引き継いで手続が終了します。
◎特別縁故者に対する相続財産分与
家庭裁判所により相続財産清算人が選任された場合において、家庭裁判所の相続人を捜索するための公告で定められた期間内に相続人である権利を主張する者が現れず相続人不存在が確定した場合に、被相続人と特別の縁故のあった者が「特別縁故者に対する相続財産分与」の申立てを行い、家庭裁判所が相当と認めるときは、相続財産清算人が被相続人の債務を支払うなどして清算を行った後に残った相続財産の全部又は一部を分与します。
なお、申立てができる期間は公告の期間満了後、3ヵ月以内となります。
※特別縁故者とは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者のいずれかに該当すると認められる者です。