見直しが検討されている在職老齢年金制度と厚生年金の標準報酬月額上限
厚生労働省の社会保障審議会(年金部会)では今後の年金制度改正に向けて、被用者保険の適用拡大及び第3号被保険者を念頭に置いた「年収の壁」への対応をはじめ、在職老齢年金制度や厚生年金保険における標準報酬月額の上限などを見直す方向で検討しています。
◆在職老齢年金制度について
在職老齢年金制度は、厚生年金の適用事業所で就労し、一定以上の賃金を得ている60歳以上の老齢厚生年金受給者を対象として、賃金と年金額の合計額が支給停止の基準額(支給停止調整額)を超える場合に年金額の一部または全部の支給を停止する仕組みです。
具体的には、受給している老齢厚生年金の「基本月額」と「賃金(総報酬月額相当額※)」の合計額が支給停止調整額(令和6年度は50万円)を超える場合に、その超える金額の1/2が支給停止額(月額)となります(支給停止額が年金額を上回る場合は全額支給停止)。
なお、在職老齢年金制度による支給停止は老齢厚生年金に対して行われるものであり、老齢基礎年金は支給停止の対象外のため全額支給となります。
支給停止額(月額) | |
---|---|
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が 支給停止調整額以下の場合 |
0円(全額支給) |
基本月額と総報酬月額相当額の合計額が 支給停止調整額を超える場合 |
(基本月額+総報酬月額相当額一支給停止調整額)×1/2 |
◎留意点
・在職老齢年金制度による支給停止の対象は、厚生年金の適用事業所で働く被保険者及び70歳以上の者の賃金であり、賃金以外の収入は対象になりません。
・65歳以降も厚生年金の適用事業所で就労し、老齢厚生年金が支給停止される者について、在職支給停止相当分は年金の繰下げ受給による増額の対象となりません。
◎在職老齢年金制度の見直しの方向性
在職老齢年金制度が高齢者の就業意欲を削ぎ、さらなる労働参加を妨げている例も存在していることを踏まえ、高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点から、制度撤廃や支給停止調整額の引上げ(62万円又は71万円)による見直し案が提示されています。
◆厚生年金の標準報酬月額について
社会保険(厚生年金保険・健康保険)における毎月の保険料は、一定の範囲で区分した被保険者の標準報酬月額にそれぞれの保険料率を乗じて計算します。
現行、厚生年金保険の標準報酬月額は全32等級に区分されており、下限は8.8万円、上限は65万円となっています。また、健康保険の標準報酬月額は全50等級であり、下限は5.8万円、上限は139万円となっており、厚生年金の標準報酬月額の上限は健康保険と比べて低く設定されています。
なお、厚生年金保険の標準報酬月額については、各年度末時点において、全被保険者の平均標準報酬月額の2倍に相当する額が標準報酬月額の上限を上回り、その状態が継続すると認められる場合は政令で上限の上に等級を追加できる「2倍ルール」を法定化しています。
◎厚生年金の標準報酬月額の上限見直しの方向性
現行の2倍ルールによる上限引上げを経ても上限等級に多くの者が該当している状態が継続しており、負担能力に応じた負担を求めるとともに将来の給付も増やすことが出来るようにする観点から、健康保険の改定ルールを参考に上限等級に該当する者が占める割合に着目して等級を追加するルールに見直し、上限を①75万円(上限該当者4%相当)、②79万円(上限該当者3.5%相当)③83万円(上限該当者3%相当)④98万円(上限該当者2%相当)のいずれかに引上げる案が提示されています。